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今も昔も、語り描く人たちがいる。 〈お伽草子展〉 [見たもの読んだもの日記]

結局駆けこんでしまいました。

とはいえ、六期全部行ったらいくらかかるんだ・・・.jpg


お伽草子 この国は物語にあふれている
2012.9.19~11.4 サントリー美術館
公式ページは→こちら


9月になったら行くんだーっと意気込んでいた、お伽草子展。
10月に入ってバイトを始めたら思いのほかくたくたで・・・ようやく、最終日前日の夜間開館に駆け込みで行ってきました。


さて、お伽草子とは。
室町時代から江戸時代初期にかけて作られ、幅広い読者層に愛読された短編小説〈お伽草子〉は、題材の面白さや奇抜さを持ち味に、多彩な物語世界を繰り広げています。
(展覧会サイトより)
現代に伝わる、いわゆる「おとぎ話」の源流のひとつでもあります。


会場には、絵巻物を中心に、さまざまな物語世界を人々に届けた「お伽草子」が並んでいます。
あー、こういうとき、古い書が読めたら・・・と思うんだよね(それはそれで見るのに三時間くらいかかりそうなんだけど・・・)
「藤袋草子絵巻」「鼠草子絵巻」などは、以前同じサントリー美術館で開催された「鳥獣戯画がやってきた!」展などで見た記憶があります。


特によく覚えていた、「鼠草子絵巻」。
畜生界から逃れたいと清水観音に詣で、願望叶って、あるお姫様をお嫁に迎えた鼠。
でも、結局ネズミであることがばれ、お姫様は逃げ帰ってしまいます。
ネズミの一族がかいがいしく尽くすのに、「どうもあやしい」と罠まで仕掛けて正体を暴くお姫様。
あんまりじゃないか、と思わず鼠に肩入れしたくなっちゃいます。
お姫様が去った後の鼠の悲しみようを描いた絵巻もあるのだけど、残された衣類や道具を見ては、さめざめと泣いちゃったりするんだもんなあ。

鼠草子絵巻の絵本がほしい!.jpg
(これは鳥獣戯画展の図録より)


で、どこかの童話のように、鼠が人間になってめでたしめでたし・・・というハッピーエンドはないのです。
鼠は出家し、途上で出会った猫の坊とともに、高野の山へのぼっていきます。

この物語に限らず、登場人物が出家する結末はとても多いのです。
失恋して出家、子供を亡くして出家・・・当時の「出家」ってなんだったんだろうね。
また、清水観音が当時どのような信仰の対象であったのかも、わかるような展示がありました。


猿が人間の娘を連れさってお嫁さんにする「藤袋草子絵巻」にしても、もともとは「畑仕事を手伝ったら娘をやる」と言われたわけで、そりゃ猿だって頑張ろうと思ったりするだろうさ。
結局娘は、通りかかった狩人に助けられて結婚しちゃうし、猿は懲らしめられちゃうし、浮かばれないよねえ[もうやだ~(悲しい顔)]


物語の面白さもさることながら、動物たちの生き生きした表情や、当時の風俗がよくわかる描写がとても楽しい。

魚料理が豪華だ!.jpg


これは、昔の化粧の方法を描いたもののようです。作品は見てないけど、面白いので絵はがき買っちゃいました。

着物の柄も見どころです.jpg


今で言うと、「今ドキ美眉ライン!」みたいな?
(女性誌全く読まないから、よくわかんない・・・orz)


武士が台頭した鎌倉末期、人気があったという「酒呑童子」は、鬼神・酒呑童子を源頼光たちが征伐する話。
(画像は→こちらでどうぞ)
狩野派をはじめ、有力な絵師が描いた華やかな絵巻が何点も作られています。
面白いのは、この物語の後日譚などが、別のところで自由に作られていたというところ。

・・・それって、今でいう「スピンオフ」とか「二次創作」っていうやつだよね(笑)!?

当たり前ですが印刷技術などない時代、絵巻物や草紙は書き写しや模写で複製され、広まっていました。
そのうち少しずつ違う表現が加わったりして、そのバリエーションを見るのも面白いです。


お伽草子は、わりあい色々な人が自由に作っていたようで、なかには「当時の人の下手くそな絵」みたいなのもあって、ついニヤリとしてしまったりします。
こういうのって、絵はがきで断片だけでも仕入れて帰ることもできないんだよね・・・
会期終了間際で、図録が買えなかったのがつくづく悔やまれます。


[ひらめき]

しかし今回最大の衝撃?は、巻末に「この絵巻は読んだら処分してください。二十九歳の女より」(27歳だったか28歳だったか忘れちゃったけどそのあたりの年齢です)という内容の添え書きのある、恋物語を描いた絵巻。

残ってるやんか(T▽T;)

中高生の頃とかに描いた漫画とか、いや漫画描かなくても痛々しい作文とか卒業文集とか、そういう黒歴史[爆弾]ってありますよね?よね?ナイ!?
葬り去ったはずのあれが、実は残ってたというこっ恥ずかしさですよ!
いや、当時の20代後半なら、今でいうアラフォーとかアラフィフとかでしょうか。
そんな年齢で少女漫画チックな恋バナ書いちゃって、親しい人に「恥ずかしいから見たら捨てて」って言って渡したのに、死んでから公開されちゃった、みたいな経緯でしょうか。

捨ててやれよー(T▽T;)

しかし、こうして現代のワタシ達が楽しんでいるのも、捨ててあげなかった誰かのおかげなわけで・・・すみません。


いつもは絵そのものばかり見てしまうワタシですが・・・
15世紀~18世紀の日本に、これほどバラエティに富んだ、自由な創作の世界があったことが、とても新鮮な驚きでした。
同人誌即売会、いわゆる「コミケ」が盛り上がりを保っている現代にも、通じるところが感じられるのもまた。


会期中は展示替えも多く、何度も行って楽しめる展覧会だったようです。
終了間際に駆け込んだのは、ちょっともったいなかったな。と反省して終わるレポなのでした。
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コメント 13

HIRO

こんにちは。
確かにコミックの原点とも言うべきものが…

で、しろのぽさんの1コマ新作は?(笑)
by HIRO (2012-11-11 21:45) 

tonoji

いつかね・・・コミカルにマイナリストの似顔絵を
しろのぽさんに書いてもらいたいなと・・・ふと思うです。
みんなが年を取ってしまわぬうちに(爆)
あっ 眉の書き方は普通でいいです(笑)
by tonoji (2012-11-11 23:33) 

tansta

黒歴史・・・あまり思い出したくないものです^^
by tansta (2012-11-12 22:18) 

リュカ

そうなんですよね!こういう展覧会を見たとき、文字が読めれば・・・ってつくづく思います。
エジプト展でもヒエログリフが読めればなあ・・・と思う(笑)
(文法の本を買って、結局マスターできなかったw)
でもそうなると、しろのぽさんが言うように時間をかけすぎて大変かもww

黒歴史ありますよぅ。実家から出てくるとき、いろんなものを残してしまったので
処分されたとき母親に全部読まれたと思うと、顔から火が出ます^^;
by リュカ (2012-11-13 09:42) 

luces

これは見に行こうか迷っていて、結局いかなかった展覧会です。
中世の物語は一時期凝って読み漁ったことがありますが(訳文ですが)
登場人物がみな生き生きして惹き込まれます。まじめに古文の勉強を
しておけば良かったと心からおもいました。
絵巻物も、酒呑童子とか土蜘蛛とか魅力的です。
恥ずかしい黒歴史?いっぱいあります。
by luces (2012-11-13 19:49) 

しろのぽ

HIROさん

絵巻物の表現が、現代のアニメーションにつながっているという話もありますしね。
あっひとコマ、ネタがわかったら描くって宣言して2カ月近く・・・(爆)


tonojiさん

絵が描ける人=似顔絵が描ける、ではないし、ワタシも得意ではないんですけどねえ。
いっそみんなまろ眉で描いてしまうかっ!?そしたら似てる似てないじゃなくなるわー(T▽T;)


tanstaさん

くすくす、みなさん黒歴史あるのね~。
たまに忘却の彼方から舞い戻ってきては、恥ずかしくなるもんです。


リュカさん

ヒエルグリフの文法の本なんて出てるんですか!
語学に詳しかったら、それだけでも面白そうですよね。
この手の書が読めたとして、文字が読める→現代語に訳す、で、ものすごい時間がかかりそうです(笑)
って、図録買えばいいのか・・・

ワタシなど、高校時代に友人たちと作っていた本を、親父が知り合いにあげていたことまであるのです!
万が一出てきたらと思うと、怖くて福岡に行けません(ウソ)。


lucesさん

行きたいものに全部行くのは無理ですものね。
ボーダーライン上のものをどうするか、いつも悩みどころです。
中世の文学は、ちゃんと読むととても面白いんでしょうね。
古典文法などきれいさっぱり忘れてしまいましたが、原文で読むのが味わい深そうです。
由緒正しい?小説もいいですが、おとぎ話や説話は世相もわかりやすく反映してて面白そう!
lucesさんの黒歴史っていったい何なんでしょう・・・すごく気になります(ソコ!?
by しろのぽ (2012-11-14 23:05) 

hoshizou

私は、黒テープがあります。いま、持ってます。
中学3年かな、yasuzouや、その他のメンバーで、ラジオDJ風に録音して遊んだもの。。。
確か、題名は、当時からふざけていて『青春さわやかジョッキー』でした。
あれ、聞いたら、死にたくなるかも。
by hoshizou (2012-11-16 00:57) 

yogawa隼

太宰治の”御伽草子”との微妙な違いが理解できました。
勧善懲悪にとどまらず、性格の悲喜劇・社会の不条理が描写されています。
by yogawa隼 (2012-11-17 08:17) 

miyomiyo

物語はハッピーエンドを望むアメリカかぶれの自分です。
模写って、伝言ゲームのよーに、書き写されてく度に別もんになってくってパターンでしょーか。
中にゃ~名作になったり、劣化したり、最近ぢゃ~判断に困るよーなキリストの修復画だったりしちゃうんですな。
んで文章だって、今読みゃ~小難しくても、当時としちゃ~文語表現だってのを考慮しても在り来たりの表現だったりするんでしょーか。
んで、ぷにしゃんの黒歴史の一つが、コスモス畑でスキップのビデオであることを知ってるです。

by miyomiyo (2012-11-17 20:45) 

しろのぽ

hoshizouさん

音声っちゅージャンルもありましたね、しかも恥ずかしいエアチェックとかではなく自録りとは!
hoshizouさんの場合、それがさらに動画となり、黒歴史を作るっていうより作られちゃった人がいるんじゃないかと!?
・・・って下でおぢさんが勝手に代弁しちゃってることにしておきます(爆)


yogawa隼さん

お久しぶり、ですよね?
ワタシ、太宰は全く読んでいないのですよ。
高校生くらいでハマる人もいますけど、ワタシはSF読み(それはそれで・・・)だったし。
いずれにしても、ストーリーを追う以外にも、物語の魅力がたくさんありますね。


miyomiyoさん

ハッピーエンドを取ってつけるなよ、っちゅーひねくれた日本人のワタシです。
物語だと伝言ゲームですが、絵だと劣化コピーになるっていうのはどーでもいい話でしょーか。
田舎のおばちゃんが、別もんになるほど修復しちゃったあのキリストの絵、意外にいい絵なのがまた困りもんでありました。
んで、なぜワタシの黒歴史を勝手に読み取っている!!!
それこそYOUTUBEに残っている限り、死ぬに死ねないレベルですケロ何か・・・(T▽T;)
by しろのぽ (2012-11-17 21:25) 

T2

その黒歴史が、貴重な資料に!
でも、みんな持ってますね フフフ。
by T2 (2012-12-11 21:32) 

e-g-g

間に合って良かったですね、
駆け込んで、目を見張って、物語りに入り込むしろのぽさんの
高揚感(いや興奮かな)が良く伝わってきます。

>15世紀~18世紀の日本に、これほどバラエティに富んだ、
>自由な創作の世界があった
私たちの歴史観の大半はいわゆる正史の上に
成り立っているわけですけど、
ひょっとすると、この自由な創作の世界に本当の歴史の一部が
刻み込まれているのかもしれませんね。

それにしても同じ日本語なのに、
古い書が読めない、分からない、、、なんだか変な国語ですね。。。
by e-g-g (2012-12-17 18:35) 

しろのぽ

T2さん

いやほんと、ワタシのような者は黒歴史のタネをまきながら生きてきたようなもんだ、と思ってましたが・・・みんなあるのねー(笑)


e-g-gさん

ちょっと精神的にまいっている時期でしたが、がんばって行ってよかったです。
やはり、こういうものが自分には必要なんだな、と思いました。

自分たちの生きたことがない時代は、残されたものから知るしかないのですよね。
その蓄積が、自分たちにつながる「歴史」として共有されているのだけど、さて、それは誰にとっての歴史なのか?
市井の人たちから見たものをつないでいくと、全く違った歴史があったりして。
そんなことを考えました。いつもヒント豊かなコメント、ありがとうございます。

古典文学といっしょに、古い書を読んでみる授業とか、高校あたりでやったら面白いんじゃないかな?と思いました。先生が大変でしょうけど(笑)
by しろのぽ (2012-12-19 00:10) 

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